「痛みを科学するシリーズ」第2回 内臓痛を知って適切な受診を行おう
【内臓痛とは?】
お腹の痛みは発生機序により、関連痛と内臓痛、体性痛の3つに分類されます。今日お話しする内臓痛は、腸管の急激な過伸展や収縮、圧迫やガスの貯留による内圧上昇、臓器被膜の伸展などによって生じる痛みを指します。疼痛の特徴は、鈍痛(局在のはっきりしない重苦しい痛み)や仙痛(刺しこむような痛み)、吐き気や嘔吐、冷汗を伴うことが多いです。
【内臓痛はどんな痛みか】
お腹の痛みはケガをした痛みと違い、猛烈で冷や汗の出る苦痛が襲い、とてつもない不安感を味わいます。特に、炎症性の腸疾患は、強い腹痛と慢性的な下痢、粘血便や嘔吐なども生じ、その苦痛と不安は壮絶だと思います。腸管の侵害受容機構(痛みを感じるシステム)は、皮膚や筋組織におけるそれと本質的には変わりません。ところが、腸は「切る・刺す」などの侵害刺激が加わっても痛みを感じません。よく、刺すような痛みと言いますが、腸は刺す痛みを感じないのです。腸はどのように痛みを感じるかというと、腸管壁に生じた炎症や科学的な刺激、腸管内圧を上昇させるような圧迫や事象、腸壁の過度の伸展や収縮、内腔の狭窄による病的な状態などにより、あの壮絶な内臓痛を引き起こすのです。また、消化管の感覚神経線維の特徴から、痛む部位の局在を特定することは困難なため、あの腹部全体が痛いような苦しい冷や汗をかく痛みを味わうことになるのです。
【今、腸に関心が集まっている?】
腸の痛みで論文検索を行うと、30,857件の論文が出てきます。約30,000件の論文の多さは、消化管不調に対する社会的関心の高まりとも言えると思います。論文は、炎症性の腸疾患に関するものが多く、腸管における侵害受容機構(痛みを感じるシステム)や免疫システムに関する研究が多い気がしています。また現状でも、様々な疫学調査では一般人口の10~40%が、機能性消化管障害(腹痛、腹部不快感、下痢や便秘などの腹部症状があるものの、その症状を説明できる器質的な異常を認めない状態)を抱えていることが分かっています。さらには、パーキンソン病の発症リスクが炎症性腸疾患と相関することも分かってきており、腸はトレンドだなと感じています。
【腸は生体防御の重要拠点】
人の腸管には、人体のリンパ関連組織のおよそ60~70%が存在していると言われています。腸管には、食べた肉や魚などの異種タンパク質や細菌、カビなどの異物が日々侵入してきます。これらを防御するために、腸管には免疫系による防御システムと侵害受容が精緻にはりめぐらされています。腸管は、人が長い進化の過程で獲得した免疫システムを武器に、アレルゲンの侵入を防御し生体の恒常性(ホメオスタシス)を維持する重要な器官なのです。
【内臓痛を治療する】
お腹の痛みを治療する方法は、基礎疾患を治療することが基本です。消化管の疾患は、腫瘍性疾患、炎症性疾患、機能性疾患に大別され、痛みの原因となっている病気を治療します。最近増えている機能性消化管障害の場合は、食事や生活習慣も見直してもらいます。治療といっても千差万別です。腹壁の緊張が高まると痛みが悪化する傾向がありますので、膝を抱えるように少し丸めた姿勢で横になり、それでも痛みが続くようであれば、消化器内科を受診してください。また、咳をするとお腹が痛い、歩くとお腹が痛い、吐き気や嘔吐、下痢や便秘、その他の消化器症状がある場合でも、早めにかかりつけの消化器内科を受診することをオススメします。