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コラム

「痛みを科学するシリーズ」 第3回 「がん」の痛みと緩和ケア

【日本人と「がん」の疫学】

「がん」とは、正常な細胞の遺伝子が傷つき、異常な細胞が無秩序に増え続けて発生する病気です。正常な細胞の遺伝子が傷き、異常な細胞が生まれる事を「形質転換」といいます。細胞が異常増殖した病変を腫瘍と呼び、腫瘍の中で特に悪性のものを「がん」と呼びます。

「がん」は、日本人の死因の第1位です。「がん」の罹患率や死亡率は、高齢になるほど高くなります。国立がん研究センターのがん統計をみると、日本人の2人に1人は何らかの「がん」に罹り(2017年)、男性の4人に1人、女性の6人に1人が「がん」で死亡する(2019年)というデータになっています。死亡率の高い「がん」は、胃、大腸、膵臓、肝臓など、消化器の「がん」が多く見受けられています。

 

【「がん」と痛みの疫学】

がんの痛みは、「がん」そのものによる痛みや「がん」の治療による痛み、精神的な痛みと複合的な痛みであり、かなり苦痛を伴うといえます。がん関連疼痛の有病率を調査した論文のメタ解析では、「がん」患者さんの53%ががん関連疼痛を有していることが分かっています。治療との関連では、積極的治療を受けた患者さんの33%が、抗がん治療を受けた患者さんの59%が痛みを有していることが明らかになっています。また、進行がんや転移のある患者さん、終末期の患者さんの64%が痛みを有していることが明らかになっています。(疼痛医学-11がん関連疼痛)

 

【がんの痛みの機序】

国際疾病分類(ICD-11)ではがんの痛みを、「がん」そのものによる痛みと「がん」治療による痛みに分けています。「がん」そのものによる痛みは、内臓痛、骨痛、神経障害性疼痛、その他に分類されています。がん細胞は、炎症反応を引き起こし、痛みを感じる神経を活性化し、感覚過敏を引き起こします。また、骨に転移したがん細胞は、破骨細胞を活性化し酸を分泌して骨を破壊し、酸は痛みを感じる神経を活性化して痛みを引き起こします。

がん治療による痛みの多くは、神経障害性の痛みです。放射線治療後の痛みは、放射線による神経の直接障害、組織の線維化による神経圧迫、血管損傷による神経虚血などにより痛みが生じます。

抗がん剤治療は、軸索障害や髄鞘障害などによる末梢神経の機能障害などが分かってきており、化学療法による痛みの機序の研究が進んできています。また、がん手術後の慢性痛が注目されていますが、その機序は現在のところ明らかになっていません。

 

【痛みを緩和するケア】

緩和ケアは、疾患に特有の症状をできるだけ緩和し、生活全般の質が向上することを目指します。緩和ケアは、1900年代に主に「がん」をモデルとして確立されました。現在は、非がん疾患へのケアにも広がりをみせています。緩和ケアは、医療従事者にも誤解されていることが多いといわれ、世界保健機関(WHO)は、9つの緩和ケアの原則を掲げています。9つの緩和ケアの原則からも緩和ケアは本来、幅広い概念ですが、今日は、「がん」の痛みと緩和ケアという視点を絞ったお話をしたいと思います。

「がん」は進行性の病気のため、疼痛も進行とともに強くなる傾向があります。「がん」の疼痛は、とても不快な感覚体験であり情動体験といえます。ご家族と共に残された時間を大切に、自分の住み慣れた我が家で過ごすなら、誰もが痛みなく過ごしたいだろうと思います。

緩和ケアで行う疼痛コントロールは、痛みの強さに合わせて鎮痛薬を選択処方します。具体的には、非オピオイド鎮痛薬とオピオイド鎮痛薬、鎮痛補助薬をミックスさせて痛みをコントロールし、できるだけ痛みのない生活を送ることができるようにします。疼痛コントロールは、痛みの強さに合わせて薬物療法等を行うため、痛みの評価がとても重要といえます。痛みの評価を行う尺度は、約15種類程度ありますが、痛みを的確に評価し適切な処方を行うことで、副作用を低減しながら痛みをコントロールします。

緩和ケアは単に痛みを取るだけでなく、あらゆる種類の苦痛からできるだけ解放するケアであるべきと思います。痛みは不安や苦痛、悲しみや落ち込み、失意や怒りといった、人の精神を健全に保てないほどの状態になります。苦痛のために入院を余儀なくされることがないように、できるだけ在宅で安楽に安心して過ごせる様に対応したいと思っています。