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コラム

「ストレスを科学するシリーズ」 ストレスとその身体への影響

【ストレスとは】

ストレスを広辞苑で引くと、「種々の外部刺激が負担として働くとき、心身に生ずる機能変化」と載っています。また、stressを英和辞書で引くと、「応力」と載っています。広辞苑で応力は、「物体に外力が加わる場合、それに応じて物体の内部に生ずる抵抗力」とあります。つまりストレスは、何らかの外部刺激が、内に与える影響のことを指していると捉えることができます。医学では、何らかの外部刺激が、内に与える影響のことを「ストレス反応」といいます。もっと細かく言うなら、生体は受ける外部刺激に適応して、生体内部の恒常性を維持しようとしており、このような生体反応を「ストレス応答」といいます。ストレス反応は、ストレス応答を包含する概念といえます。

 

【ストレス反応】

カナダ人生理学者のハンス・セリエ博士は、ストレスが動物体内にどのような反応を示すかの研究を行い、ストレス応答を起こす経路には、脳下垂体から副腎皮質の内分泌系によるものと、自律神経系によるものの2つがあることを明らかにしました。この2つの相互作用に加えて、ストレス応答には、3つの段階(警告反応期、抵抗期、疲憊期)があることも明らかにしました。この学説は、ストレス学説といい、生理学の内分泌総論等で出てきます。

 

第1段階の警告反応期は、ストレスに対する最初のストレス応答で、副腎皮質を肥大させリンパ組織を萎縮させ、自律神経系を失調させます。身体の症状としては、血圧低下や血糖値の低下、胃粘液の減少、体温低下、免疫低下などが生じます。警告反応は、ストレスがかかっている間ずっと続くのではなく、ストレスの始まりから数日以内に終わり、第2段階へと移行します。

 

第2段階の抵抗期は、ストレス応答から回復しようと、身体の生理機能を一定に保とうとする応答が生じます。この応答により、副腎皮質やリンパ組織、自律神経の失調状態は回復に向かいます。そして、自律神経は副腎髄質に作用して、アドレナリンを分泌させます。それにより、身体の活動エネルギーであるATP産生や、体内の代謝活動が活発になります。この時期にストレスが弱まるか、消失すれば身体は元に戻ります。しかし、その前にエネルギーが枯渇すると、次の段階に移行します。

 

第3段階の疲憊期(ひはいき)は、ストレスに抵抗するエネルギーが尽きると、徐々にストレスに対する抵抗応答が低下し、警告反応期に逆戻りしたり、生体の恒常性機能が失われると場合によっては、死を迎えたりします。

 

【ストレスが影響する身体の応答】

長期間ストレスが続くと、不妊や無月経が生じたり、脳の海馬が萎縮したり、成長ホルモン分泌を抑制することが明らかになっています。また、糖代謝異常により、糖尿病が悪化することが知られています。ストレスによって、その他のホルモンの分泌にも変化が生じ、多様な疾患の発症の可能性があると認識されていますが、全貌は明らかになっていません。

 

【参考文献】

標準生理学 医学書院 2024年第9版

ストレスの生物学 ストレス応答の分子メカニズムを探るを探る 室伏 きみ子