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コラム

「プロバイオティクスを科学するシリーズ」 第2回 日本人の腸内細菌叢の特徴

【人の常在細菌叢】

太古から微生物は存在し、人と共に生き、共に進化してきました。現在では、人体に無くてはならない存在に進化し、生態系そのものになっています。これを、共生と言います。特に人の消化管は食物が通過する特殊な器官なので、常在細菌叢(微生物)が多く存在する部位です。人の消化管の常在細菌叢は部位により概数が異なりますが、口腔は約100億個、皮膚は約1兆個、胃は約1万個、小腸は約1兆個、大腸は約40兆個、泌尿生殖系は約1兆個と大腸がダントツです。人の体細胞は男性では約30兆個、女性では約23兆個なので、人の身体の約6割~7割は微生物であると言えます。人の免疫応答をすり抜け、共生する微生物の生存戦略はすごいなと思います。常在細菌叢のバイオマスがすごいことが分かります。

 

【微生物の研究】

微生物のことがいろいろ分かり始めたのは、21世紀に入りDNA塩基配列解析法が確立され、微生物をメタゲノム解析できる様になったからです。これにより、微生物を培養技術だけに依存することなく、網羅的に遺伝子解析して機能解析を行うことができるようになりました。医学で微生物を捉える時は、主に病原微生物にフォーカスを当てがちだったのですが、これらの解析により人体には、共生微生物が多く存在していることが分かり、共生微生物のアンバランスが胃腸疾患やアレルギー、自己免疫疾患、がん、肥満、精神疾患等を引き起こしているということが分かってきています。“微生物なしに人は健康ではいられない”という認識が、常識化し始めています。

 

【日本人の腸内細菌叢の特徴】

日本人の腸内細菌叢は、食物繊維を発酵させる善玉菌が多くみられ、発酵反応により生じた水素を利用して酢酸を生成する遺伝子を多くもっている特徴があることが分かっています。酪酸はその多くが大腸の粘膜上皮のエネルギー源として消費されます。粘膜上皮細胞が必要とするエネルギーの約60~80%は、腸内細菌が作る酪酸でまかなわれていると言われています。大腸の粘膜上皮には、水分・ミネラルの吸収や、バリア機能を担う粘液の分泌といった機能があり、大腸が正常に機能するには、酪酸はとても重要と言えます。また酪酸は、抗炎症作用や腸管免疫系の恒常性維持など種々の生理作用があり、人が健康に生きるための重要な役割を担っています。

 

【酪酸と腸内フローラ】

酪酸は、腸内フローラを健康な状態に維持する役目を担っていることが分かっています。具体的には、酪酸は大腸の粘膜上皮細胞の代謝を促して酸素を消費させ、酸素が腸管内に行き渡らなくなることにより、嫌気性菌であるビフィズス菌や酪酸菌が育つ環境を作っています。一方で、好気性の大腸菌やブドウ球菌が生きにくい環境を作ることで、良好な腸内フローラが育つ環境を作っています。

 

【酪酸を増やす食事】

人の健康を支える酪酸を作り出せる腸内細菌は、酪酸菌だけです。酪酸菌を含む食品は少なく、ぬか漬けや酪酸菌ヨーグルト、臭豆腐くらいです。ぬか床を代々受け継ぐ時代でもないため、意識しないと取り入れる事が難しいかもしれません。また、腸内の酪酸菌を育てる食事は、酪酸菌のエサとなる水溶性食物繊維を含む食事です。水溶性食物繊維は水に溶ける食物繊維で、果物や野菜に含まれるペクチン、コンブやワカメなどのぬるぬるの成分のアルギン酸などがあります。コンビニでも、もち麦おにぎりやわかめサラダ、ひじき和え物、デザートにヨーグルトなど意識すると水溶性食物繊維の食材等を選べると思います。酪酸を増やす生活を、是非チャレンジして頂きたいと思います。

 

(参考文献)

医学書院 標準微生物学、医学書院 標準免疫学、実験医学Vol.37-No.2 2019 腸内細菌叢

アバス-リックマン-ピレ 分子細胞免疫学 監訳 中尾篤人

すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢 内藤裕二著

Microbial metabolite sodium butyrate enhances the anti-tumor efficacy of 5-fluorouracil against colorectal cancer by modulating PINK1/Parkin signaling and intestinal (flora.Scientific reports. 2024 Jun 06;14(1);13063. pii: 13063.)

Short-chain fatty acid levels in stools of patients with inflammatory bowel disease are lower than those in healthy subjects.

(European journal of gastroenterology & hepatology. 2024 Jul 01;36(7);890-896. doi: 10.1097/MEG.0000000000002789.)