「プロバイオティクスを科学するシリーズ」 腸内細菌叢とがんの関係を知って 口腔ケアを見直そう!
【歴史ある雑誌から】
日本生化学会(JBS)が発行している「生化学」という雑誌の中で、腸内細菌叢とがんの関連性について面白い論文を見つけたので、少しご紹介したいと思います。
【ヒトと共生する腸内細菌】
ヒトと共生する腸内細菌はさまざまな生理作用を持ち、宿主であるヒトのホメオスタシス(恒常性)を保っていることが分かっています。腸内フローラのバランスが崩れ、ディスバイオーシス(腸内フローラのバランスが乱れた状態)が生じると、さまざまな病気につながることが分かっています。
【大腸がんに関係する腸内細菌】
フソバクテリウム・ヌクレアタムは、歯周病菌で口腔内常在菌です。大腸がん患者さんの腫瘍部付近には、このフソバクテリウム・ヌクレアタムが正常組織周囲よりも多く検出され、発がんを促進する可能性があるとされています。実験では、フソバクテリウム・ヌクレアタムは、菌の体表面と大腸の上皮細胞が結合して細胞増殖を起こし、また、ナチュラルキラー細胞を抑制して抗腫瘍免疫応答を抑制し、大腸がんの増殖を促進しました。さらには、フソバクテリウム・ヌクレアタムは、口腔がんの進展にも関係するデータが出ています。
【肝臓がんに関与する腸内細菌】
近年、腸内細菌がさまざまな肝疾患にも影響を及ぼすことが分かっています。その原因として、飲酒や長期にわたる高脂肪食接種、また、腸管バリアの脆弱化があるとされています。腸管バリアが脆弱化すると、腸内細菌由来の物質が肝臓に移行し、炎症が慢性炎症化し、さらには肝細胞がんの発症につながるようです。
【口腔ケアは大事】
この論文を読んで、改めて口腔ケアの重要性を実感しました。高齢になると唾液の分泌量の減少、歯の摩耗、歯茎のやせ、あごや舌の運動機能の低下などによってトラブルを抱えやすくなっています。寝たきりの患者さんでも、口腔清拭を行い口腔内細菌を減らしたほうが良いです。口腔ケアグッズの種類はたくさんあるので、ご自分やご家族に合うグッズを探してみるのも良いですね。口腔内を清潔に保つことは、味覚や触覚を鋭敏にし、食べる意欲を引き出す意味でも重要なことです。食べる意欲がでれば、脳が活性化し、食べる楽しみを感じることができます。
参考文献
生化学 第96巻第3号 pp325-335(2024)
「腸内細菌叢とがん」大谷直子 大阪公立大学大学院医学研究科 教授 医学博士