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コラム

「慢性炎症を科学するシリーズ」 慢性炎症と病気と予防

【慢性炎症が引き起こす病気】

炎症は、炎症のタイプとレベルが適正であれば、効果的な免疫応答として無くてはならない生体防御反応です。しかしながら炎症が長引いてしまうと、身体にとって危険な状態を引き起こし、やがて命を脅かす病気になります。

慢性炎症は、さまざまな疾患に関連していることが広く知られるようになっています。慢性炎症が関連して生じる病気は、心臓病、腎臓病、アトピー、膠原病、がん、2型糖尿病、肺炎、うつ病、筋疾患などがあります。このように慢性炎症は、多様な疾患に共通する基盤となる病気の状態といえます。

 

【老化と慢性炎症】

加齢に伴う老化は、免疫の機能を落とし(免疫老化)感染しやすく、一方で炎症が容易に誘導され、さらには慢性化する(炎症老化)という状態になることが明らかになっています。老化による炎症は、老化細胞の蓄積が要因の1つで、老化細胞を除去した個体は、寿命が延伸することが分かっています。老化細胞は、炎症反応を持続的に引き起こし、その結果臓器の機能を低下させ、糖尿病や動脈硬化、がんなどの原因となることが知られています。老化細胞は、老齢期であっても傷害のない筋組織にはほとんど存在しないか、非常にすくないため、かならずしも加齢=老化細胞ではありません。また、老化細胞は、肝臓の線維化を制限する等、慢性炎症を進めるだけという単純な役割ではないことが分かってきています。

今後、研究が進むにつれ、炎症と上手く付き合い、慢性炎症を制御する方法がみつかれば、多くの命が救われることでしょう。

 

【がんと慢性炎症】

炎症は、発がんの全過程に関係していて、がんの進展を促進したり抑制したりしています。加齢や生活習慣病などの原因により慢性炎症状態になると、がん細胞が生じることがあります。慢性炎症は、顆粒球を増加させ細胞傷害を起こし、リンパ球を減少させがんを進展させる状態になります。がん細胞は、制御性T細胞を利用して免疫からの攻撃や排除を回避して細胞を組織化させていきます。

日本人の死因の第1位は、がんです。そのため、治らない病気の様に捉えがちですが、リンパ球が正常に働き、がんを排除できればがん化することはありません。がんは、早期発見できれば治る可能性が高い病気になってきました。早めに手を打つために、がん検診を受けることが有効です。ぜひ、ご検討ください。

 

【食べ物で慢性炎症を防げるか?】

食事が体内の炎症状態に与える影響を総合的に評価する指標として開発された、「DII」というものがあります。米国サウスカロライナ大学の研究チームが開発した指標です。DIIによると慢性炎症を防ぐ栄養素には、ビタミンやミネラル、脂質、食物繊維などがあります。その具体的な食材は、野菜やスパイス、ハーブ、魚といった食材でした。食材をみると、多くがファイトケミカルを含む食材です。ファイトケミカルは、野菜や果物、キノコ、海藻、ナッツといった植物性食品に含まれる化合物です。本来は、植物が紫外線や昆虫、有害物質から身を守るために作り出す色素成分や、香味成分、辛味成分、粘性成分などです。現在、約5,000種を超えるファイトケミカルが同定されています。多くの種類の野菜や果物等を取り入れることは難しいですが、意識してファイトケミカルを含む食材を食事に取り入れて頂きたいと思います。

 

【参考資料】

別冊BIO Clinica 老化と慢性炎症

実験医学 Vol.41 No.19 2023 12特集 炎症老化

実験医学 増刊 精密栄養学

実験医学 増刊 がんと免疫

NATIONAL GEOGRAPHIC 2024年8月号