「肺炎を科学するシリーズ」 肺炎を知って予防しよう 第1回 肺炎はどんな病気?
【肺炎が死因になる?】
肺炎が日本人の死因になることは、イメージできないかもしれませんが、肺炎は日本人の死因の第5位です。(厚生労働省 令和4年 人口動態統計月報年計の概況) とくに、65歳以上になると肺炎の発症率、死亡率は、急激に高くなります。日本人が健康寿命を生きるには、肺炎を予防することがとても重要なことと言えます。そのためには、肺炎はどんな病気なのかを知って、予防できることが重要です。
【肺はどんな役割をしている?】
肺は呼吸を通して、大気から酸素を体内に取り込み、体内で生じた二酸化炭素を排出しています。取り込んだ酸素は、細胞内にあるミトコンドリアで細胞のエネルギー源として、生命活動に必要なエネルギー(ATP)を産生します。また肺は、呼吸を通して体液pHの調節機構の1つを担っています。細胞を適切に働かせるために、体液pH値を約7.35~7.45に保っています。肺が肺疾患や呼吸筋の障害、呼吸中枢の抑制などによって、うまく二酸化炭素を排泄できなかったり、酸素を取り込めないと、pHが低下して細胞は正常に機能できなくなります。脳神経細胞では、神経活動の働きが損なわれ、傾眠や昏睡、せん妄、けいれんなどの中枢神経症状が出たりします。二酸化炭素は細胞への透過性が高いため、容易に細胞内のpH低下を引き起こします。
【肺炎はどんな症状が出るの?】
肺炎は、肺に炎症が起こる病気です。(炎症については「慢性炎症を科学する」シリーズ参照)炎症が起こる理由は、病原微生物の感染や食べ物や唾液の誤嚥があります。症状は、発熱や悪寒、頭痛、関節痛、倦怠感、食欲不振などの全身症状以外に、咳や呼吸困難、痰などの呼吸器症状があります。胸膜への炎症の広がりがある場合は、胸痛も起こります。肺炎を繰り返すなど肺炎が重篤化すると、肺の細胞が壊れて肺膿瘍(肺に膿が溜まった状態)になり、さらに炎症が胸膜に広がった場合には、膿瘍が胸膜腔に繋がることがあり、そうすると膿胸(胸膜腔に膿が溜まった状態)になります。
【肺炎にはどんな種類があるの?】
肺炎はいくつか種類があり、治療方法が異なるため、いくつかに分類されています。1つは、原因微生物の違いや胸部レントゲン像や検査データがどうなっているか、2つ目はどこに炎症があるか、3つ目はどこで感染したかで分類されています。例えば、ニュースなどでよく耳にする市中肺炎は、病院の外で日常生活をしていた人が発症した肺炎のことを言います。そして、市中肺炎原因微生物の種類を調べると、肺炎球菌が多く、時期によってはインフルエンザやマイコプラズマが見受けられます。日本では、市中肺炎と院内肺炎を分けて診療されてきましたが、超高齢化や在宅医療の整備により、市中肺炎と院内肺炎の両方の特徴を有する症例が増えており、2011年からの肺炎診療ガイドラインでは、医療・介護関連肺炎と称して総合的に診療する流れが主流になっています。肺炎の分類を図表にまとめてみましたので、参考にしてみてください。
次回は、肺炎を予防するにはどうしたら良いのか?などをお話ししたいと思います。
【参考文献】
標準 呼吸器病学 医学書院
標準 生理学 医学書院
成人肺炎診療ガイドライン2024
終末期の肺炎 大浦 誠