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コラム

「肺炎を科学するシリーズ」 肺炎を知って予防しよう 第2回 誤嚥性肺炎とその予防

前回、肺炎はいくつか種類があり、治療方法が異なるため、いくつかに分類されていることをお伝えしました。今回は、予防法をお伝えする予定ですが、特に高齢者に多い、誤嚥性肺炎に焦点を当てて、その予防法についてお話しようと思います。

 

【肺炎と誤嚥性肺炎の歴史と疫学】

肺炎の歴史をみると、肺炎は第二次世界大戦前までは日本人の死因の上位でした。特にスペイン風邪(インフルエンザA H1N1)が流行した1918年ごろは、死因の第1位でした。その後は、ペニシリンをはじめとした抗菌薬の開発や医療サービスの充実、社会基盤の整備などにより、1950年代ころより死亡率は急速に低下しました。この頃は、肺炎はもはや脅威ではないという認識が生まれたかもしれません。ところが、1980年代より死亡率は増加に転じ、その後も増加し続け、2011年には肺炎が死因の第3位となりました。2017年からは、死因順位に用いる分類項目に誤嚥性肺炎が追加されており、最近の傾向としては、肺炎の死亡数はやや減少しましたが、誤嚥性肺炎の死亡数は増加傾向にあります。厚生労働省の人口動態統計をみると、肺炎と誤嚥性肺炎による死亡数は高齢者で多く、肺炎の約98%が、また誤嚥性肺炎の約99%が65歳以上の高齢者となっています。

 

【高齢者の誤嚥性肺炎】

高齢者が誤嚥性肺炎になりやすい理由には、加齢に伴う全身の衰弱が関連しています。加齢に伴う全身の衰弱において、筋肉量や筋力の低下(サルコペニア)が起こり、嚥下する筋肉にサルコペニアが生じた場合は、嚥下機能の低下が生じます。そして、薬物やアルコール、脳卒中、認知症、神経疾患などにより神経障害がある場合は、咳嗽反射が低下します。この嚥下機能の低下と咳嗽反射の低下によっては、食べたり飲んだ物を誤嚥した場合に咳をすることで喀出し、肺に到達することを防ぐことができなくなり、肺炎のリスクが高くなります。さらに、免疫力の低下があると、病原微生物などの感染症になりやすく、肺炎のリスクが高まります。誤嚥性肺炎の方から検出される病原微生物は、肺炎球菌の頻度が低くなり、緑膿菌や嫌気性細菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌などの割合が増加するという特徴があります。

誤嚥性肺炎の一番の問題は、高齢者の死亡原因となること以上に、誤嚥性肺炎=絶食とされてしまい、食べられないままに、寝かせきりにさせられ、残り少ない人生を過ごすことになることのように思います。誤嚥性肺炎は、抗菌薬のみでの治療が難しく、リハビリテーションや嚥下訓練、口腔ケア、栄養管理などを適切に組み合わせ、包括的な治療を行う必要があります。

 

【誤嚥性肺炎の予防】

オーラルフレイルがあると、サルコペニア発症が2.2倍と言われています。サルコペニアは誤嚥性肺炎の原因の1つであるため、オーラルフレイルを予防しサルコペニアを予防することは、誤嚥性肺炎の予防につながるといえます。オーラルフレイルとは、歯が20本未満で咀嚼がうまくできない、硬いものが食べにくい、むせ易い、滑舌の低下や舌圧の低下がある、これらの状態に3項目以上が該当するとオーラルフレイルと呼ばれる、歯や口腔機能の低下した状態です。オーラルフレイルは、食事量の減少や食事内容の偏りに繋がり、栄養状態を悪化させる原因にもなります。オーラルフレイルの予防は、口腔を清潔に保つことと口腔機能の維持や改善を行うことです。口腔機能の改善は、歯科医師会からオーラルフレイルマニュアルが発行されており、マニュアルの中にオーラルフレイル改善プログラムというものがあります。その中で、みなさんが直ぐにでも始められるものとして、「口腔体操」というものがあります。口腔体操には、さまざまなものがあり、ネットにたくさん出ていますので、是非見てみてください。

寝たきりの方においては、食事を行うときの姿勢も重要です。顎が上がる様な姿勢だと飲み込む時に使う筋肉に負担がかかり、誤嚥しやすくなります。食事時の姿勢だけでなく、食事介助を行う場合に、低い位置からの介助を行うと顎が上がりにくくなり、誤嚥しにくくなります。また、誤嚥を防ぐ食事時の姿勢に、完全側臥位法という方法があります。完全側臥位法は、介助がしずらいデメリットがありますが、誰もが安楽にできる姿勢かと思います。嚥下反射のタイミングが遅い方や咽頭残留量が多い方に向いています。安全に行って欲しいので、訪問看護師などの指導を受けて行って頂きたいと思います。

 

【参考文献】

成人肺炎診療ガイドライン2024

終末期の肺炎 大浦 誠

誤嚥性肺炎の包括的アプローチ

肺炎の診かた、考え方 伊藤功郎