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コラム

「痛みを科学するシリーズ」 第 1 回 関連痛を知って適切な受診を行おう

【なぜ痛みを科学するのか】
厚生労働省の国民生活基礎調査は、国民の健康状況を概ね把握することができます。令和 4 年度のデータでは、自覚症状の有訴者率の上位 5 症状の中に痛みが3つ入っています。(1 位は腰の痛み、2 位は肩の痛み、5 位は手足の関節の痛み) この調査から推測しても痛みに悩みを抱える方が多いのだと思います。そこで痛みを科学し、その対策をテーマにシリーズでお話をしたいと思います。

第一回は、「関連痛を知って適切な受診を行おう」というテーマでお話します。

【痛みの種類】
痛みはその性質やメカニズムによってさまざまな種類があり、治療法も異なります。痛みを原因から分類すると、痛みの刺激を脳のセンサーが受けて起こる痛み(侵害受容性疼痛)と、神経自体が傷ついて起こる痛み(神経障害性疼痛)と、心がなんらかの不安やストレスを感じて生じる痛み(心因性疼痛)に分類できます。侵害受容性疼痛には、切り傷や骨折などの痛み、胃腸炎などの内臓の痛みや変形性関節症などの関節の痛み等が含まれます。神経障害性疼痛には、糖尿病による神経障害の痛みや帯状疱疹による神経痛、脳卒中時の頭痛等が含まれます。また、心因性疼痛は、神経や内臓に異常がなくても、心の問題によって頭痛や腹痛などの痛みが生じます。関連痛は、侵害受容性疼痛の臓器痛の一種です。

【痛みのメカニズム】
痛みは部位により異なる感覚受容器から起こり、自律神経や脊髄神経、一部の脳神経により痛覚信号が伝達されます。神経線維には、ABC の型があり太さや伝達速度に違いがあるため、痛みは鋭く迅速な痛みや鈍く持続する痛みなど様々です。視床の特殊感覚核に伝達された痛覚信号は、大脳皮質の体性感覚野に投射され、痛みの場所や程度、質に関する感覚を自覚します。さらには、前頭葉と帯状回にも投射しているため、痛みによる様々な不快な情動を自覚します。 また痛みは、同じ質と程度の痛みでも、その痛みを受ける状況や人により痛みの感覚が一様ではありません。アスリートが骨折しても競技を続けることができたり、一方で採血の痛みに大騒ぎする方もいらっしゃいます。痛みの自覚は、痛みを調節する感覚調整システムが働いており、人により自覚される痛みは千差万別です。さらには、強い痛みが繰り返されると感覚受容体の閾値が下がり、ささいな刺激で強い痛みを生じる事もあります。

【関連痛と症状】
侵害受容性疼痛には、痛む場所が比較的わかる体性痛と痛む場所の特定が難しい内臓痛があります。内臓痛は、痛む場所の特定が難しく、別の場所が痛む「関連痛」が生じることがあり、痛みを感じた方の不安を助長したり、どこの科を受診したら良いか分からず受診が遅くれる原因にもつながります。関連痛とは、痛みが発生している場所とは別の場所に感じる痛みのことで、神経の混線によって生じると考えられています。例えば、心筋梗塞の時に、胸の痛みと同時に顎から左肩や背中などに痛みを感じたり、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の時に、お腹でなく背中が痛くなったりすることもあります。臓器別にみると、肝臓の場合は右肩や背中が、胃の場合は背中が、膀胱の場合はお尻がといった様に別の場所が痛みます。この関連痛は、病気の診断に重要な情報となります。関連痛があると、とても不安になるかと思います。関連痛は命に係わる場合もありますから、肩や背中が痛い場合など、ぜひ総合内科の受診をオススメします。